つまらぬ男と結婚するより一流の男の妾におなり

なかなか読めず図書館の延長しまくりで やっと読了。
面白いことは面白いんだけど 350ページを一気に読ませる筆力は弱かった。

こないだから気になってた樋田慶子さん(旧芸名:緋多景子)の自叙伝本。
いろんなドラマに出ては気になる人で 名バイプレイヤーの一人として考えて良い人。
底意地の悪いすれっからしの性悪婆ぁを演らせたら天下一品な人。


憎まれ女優はたくさんいるけど 敢えて比較するなら 園佳代子や原知佐子のように
デフォルメされ作られた悪役ではなく いたってナチュラルで何処にでもいるような嫌な婆が
事の他うまい。醸し出す毛穴から息遣いから赤木春江並みだと思っている。
新派(舞台)あがりの女優さんとは思えない程だ。渡鬼クラスじゃ勝負にならない程。


私は舞台芝居には全く興味がないので 花柳流水谷八重子・良重が新派だという
知識だけしかない。波乃久里子さんはドラマなどで好きで 水谷八重子の襲名のとき
良重と競ったことなどは覚えている程度。おかげでそれまで見なかった良重さんの
和洋どっちもカコイイ芸風も好きになった程度なので 樋田さん師匠 花柳章太郎との
エピなどは楽しく読ませてもらった。山田五十鈴と関係があったことまで。


樋田さんの祖母が伊藤博文の愛人であったことから本題はこのタイトルになるのだが。
そのことから終始「お嬢さん育ち」という根底で話は展開していくのが不思議で。
大奥の年寄や中老みたいな意識でいたのかなぁ?と。しかし政治に口を出すでなく
それなり多額の資産を手にして料亭を経営した商人でしかないと思うのだなぁ。
流行の商売屋なら日銭もあるし 生活に困ることもなく贅沢だろうと想像はつくが
私ですら古い士農工商の意識を植え付けられ育っているくらいなのに 当時にしても
相手が相手とは言え 妾の家の子と陰口叩かれる存在ではなかったのかなぁと。


ウチ的には質屋というか金貸しをしていた関係で 父親が死んだときの遺品の整理で
町の偉いさんの先代・先々代あたりの質草帳みたいなものが出てきたのは笑ったけど
そんな家の子はやっぱり慶応なんかに行っちゃって いいとこの坊ちゃん扱いなのと
樋田さんがかぶるのだ。商家は所詮性質も商人なのに。


河原乞食に落ちぶれたと言う章があるが根底に流れる育ちのプライドは窺い知れる。
曽祖父が士業(神官)とかって古い話を持ち出しもしてみたり(商売人になったが)
つまりどこかで妾宅や水商売のコンプレックスがあるのではないかなぁと。
今や才能ある河原乞食の方が 商人や士業などより余程良いじゃないの。
身内に政治家だ医者だ弁護士だいるなんて威張ったところで自分はなあに?。。。
どんなに身内に高い人がいたところで結局は自分じゃん。樋田さんもう十分じゃん。


いずれにせよタイトル通り 祖母にムリから岸信介と遣り繰られようとしたところを逃げ
女優の道を歩んだ彼女の半生は 行間からもまだまだたくさんの経験があったことは
想像に難くなく楽しんでは読めた。宇都井健と付き合ってたとか 処女喪失の件では
宇都井に非ず「当時俳優座で映画で新人としてデビューしたばかりの年下の子」との
記述があるがインターネッツが早くから完備されてたならこの相手も誰だか判るだろうに
残念なことだw


この人の姉はやはり尾上の子を成した愛人だそうで 暮らし向きもよろしかろうが
この人自身は古い言い方をすれば 現代婦人の先駆けだったのだろうなと思う。
ただこの人のいう「育ちの良さ」は 武士は食わねど高楊枝とは対極だなとは思う。