序章 石川達三について

絵本を除けば 野口英世他の伝記や怪盗ルパンだ明智小五郎だから始まった読書人生。
そこから純文に行くのが順当だろうが 私の場合はヴァンダインやクリスティに横溝へ。
流石にその後で純文に行くかと思いきや行かず 石川達三に巡りあたったのであった。
ある意味ではこれが流転の人生の始まりというか「気付き」であったかも。

何故子供にこんな本をくれたのか今もって意図は不明だが 一回り以上上の従姉妹に
小6の頃かな『洒落た関係』を貰ったことが始まりだった。
尤も幼少時から本の虫である子供の傍に平気で小説宝石など放置していた非常識な
親のおかげで 宇野鴻一郎や川上宗薫を読んでいた私にはたいした内容ではなかったが。

初老の医師の男女。互いに連れ合いをなくし 籍は入れないまでも夫婦同然に
関係を長く続けていたところ 互いの子供たちが恋仲になったんだっけかな
それでどうしようと思いつつ 前後して男は30代の学校教師を友人に紹介され
後添いに貰うことを決心し 女は自分の耳鼻科に風邪でやってきた貧乏学生に
母とも女ともつかぬ恋慕をし 当初の男女関係は一応終わりを迎えた。

その後 男の後添い予定の女教師は乗馬に行ったところ落馬して急逝。
貧乏学生も女医師と抜き差しならぬ関係になる前に自制し行方不明に。
これが相手が「ババア」だから出奔したのではなく 学生も親の歳ほどの女医師に
恋愛感情があったというのが 子供心にも救いに思えた。

そんなのがせいぜい半年や一年程度のスパンの中で繰り広げられた後で再会し
焼けぼっくいに火がつくような激しさもまるでなく また淡々と関係が戻るような
そんな結末だったと記憶している。何度も読んだから結構簡単にあらすじ書けるもんだな(苦笑

ともあれこの石川達三は その前に読んでいたエロ小説家ともまったく違い
心の襞というか人間の機微というか 性描写はそこそこに匂い立つような感情が
とても響き まさに洒落た粋なオハナシと子供の私は受け取った。
後に知ることとなる渡辺淳一のような ただただセックスに溺れる稚拙な?男女
でもなく またいわゆる不倫関係というのでもないのが今にしても新鮮だ。
いずれにしろ小学生の読むような本じゃないけどなー。

これが気に入って他の石川達三に向かったのが私の人生には間違いだったかもしれない。続